こんにちは!今回は、しっかりと行う歯の神経を取る治療(根の治療)についてお話します。
皆さんは、歯の神経を取ったことがありますか?「虫歯で歯が痛くなり、痛みを取るために神経を取った」という方はいらっしゃると思います。
全国どこの歯科医院でも歯の神経を取る治療を受けることができます。
だから皆さんは「神経を取る治療はごく普通の治療で、簡単なこと。一度神経を取ったらその歯はもう痛むことはない。」というイメージを持たれているかもしれません。
しかし、歯の神経を取る治療は本当は難しく、神経を取って痛みが無くなった歯が、再び痛むことがあります。
下の写真の歯は痛みがあるということでレントゲンを撮影しました。昔神経を取る治療を行っていますが、歯の根の先に病気ができてしまい、顎の骨が大きく溶けてしまっています。
痛みが無い歯でも、レントゲンを撮影すると、このような状態になっているのはよく見られます。歯の神経を取って痛みが無くなったのに、どうしてこのようなことが起きてしまうのでしょうか?
実は、「神経の痛みを取ること」と「しっかりと神経(細菌)を取ること」は別物です。
痛みが無くなったから、神経を全部取ったのでは?と思われます。しかし、痛みはどうして出るのかを説明しますと、神経が虫歯の細菌や歯の血管、細菌と戦う細胞で圧迫されて、痛みを感じているのです。
よって、上から穴を開けてしまえば、かかっていた圧が抜けて、神経が圧迫されることがなくなり、痛みが無くなっていきます。神経を取らなくても、痛みは無くなるというのがお分かりかと思います。
その後、感染した神経と虫歯の細菌を取るのですが、それがしっかりとできていない場合でも、すぐに痛みが再発することはありません。
しかし、取り残された細菌が徐々に増殖していき、根の外に出ていき顎の骨を溶かして根の病気を作ります。細菌が増殖して圧がかかると、ひどい痛みがでます。これが一度神経を取った歯の痛みです。
神経を取ったらもう痛むことは無い、という考えは間違いだということがお分かりかと思います。
このまま治療せず放置すれば、痛みもひどくなり顎の骨がどんどん溶けて歯が抜けてしまいます。根の治療のやり直しが必要になりますが、治療しても痛みが治らない事もあります。その場合も歯を抜かないといけません。
想像しただけでもイヤですよね。そのようなことにならないためには、感染した神経と虫歯の細菌をしっかりと取り除き、細菌が再び増殖しないようにすることが大切です。
しっかりと神経を取った場合と、不十分な場合の歯がその後どのようになるのかをまとめた研究があります。
その研究によると、しっかりと行えば、治療後10年その歯が良い状態でいられる可能性は約90%以上といわれています。不十分であれば、10年その歯が良い状態でいられる可能性は約18%といわれています。80%以上が、10年以内に先ほどのように根に病気を作り痛みが出てしまうということです。
痛みが出たらまた治療をやり直せばいい、と思う方もいらっしゃいますが、治療のやり直しは、最初(その歯にとって1回目)の治療よりも成功する確率は確実に下がります。やり直しの時にしっかりとしても、先ほどのように10年後90%以上の成功率にはならないですし、状況が悪ければ、ひどい痛みが続いて歯を抜かないといけないこともあります。だから最初の治療が何よりも大切なのです。
では歯が痛まず、病気を作らずに良い状態でいられる、しっかりとした歯の神経を取る治療とはどういうものなのでしょうか?
一般的な説明では、神経をハリガネのような器具でガリガリ取って、薬を詰めて終わりという簡単なものです。しかし、実際の治療はとても複雑で、これだけでは不十分な説明です。
しっかりとした神経を取る治療をざっくりと説明すると、「十分な乾燥、十分な細菌除去」になります。
これをもとに、しっかりとした治療と、不十分な治療を4つ比較しながら説明します。
①唾液が入るのを防ぐ対策をしている/していない
「十分な乾燥」を具体的に説明すると、ラバーダムというゴムのシートで歯を囲い、歯の手術室を作って、お口の中の唾液が入らないようにします。
唾液には細菌がたくさん存在し、ラバーダムをしていないと治療の時に唾液が根の中に入ってしまうことがあります。
そうなると、治療をして根の中の細菌を取っているのに、唾液から新しい細菌が入ってしまいます。将来の根の病気の原因となってしまい、治療しているのに歯を良くしているのか悪くしているのかわからなくなってしまいます。そうならないために、ラバーダムなどで十分な乾燥状態を作り、しっかりとした神経の治療の準備を行います。
②最新の器具を使って神経を取っている/使わずに神経を取っている
「十分な細菌除去」の説明になります。歯の根はほとんどが曲がっています。
その曲がりについていける器具でないと、根をまっすぐな方向に壊してしまいます。曲がった所の神経と細菌を取り残すことになるので、根の病気を作る原因になります。最新の器具を使い、曲がった所の神経もしっかりと取ります。
また、CTを撮影することで、治療する歯を3方向から見ることができます。
これにより根の形や状況を詳しく診査できるので、縦横だけのレントゲンよりも質の良い治療が可能になります。
③見えない歯をしっかりと見ている/見ていない
これも「十分な細菌除去」の説明です。歯は小さく、またお口の中は暗く、見えません。1本の奥歯でも、神経は1つではなく、複数あります。そのような状況では取るべき神経を見落とすことが多発します。
顕微鏡マイクロスコープや拡大鏡ルーペを用いて、歯を大きく見ることができます。こうすることで、取るべき神経を見落とさず、将来根の治療の再発を防ぎます。
④時間をかけてしっかりと洗浄し、薬を隙間なくつめる/十分な洗浄ができていないし、入れた薬に隙間がある。
これも「十分な細菌除去」です。最新の器具でも、木のように細かく枝分かれした根の神経を全て取ることはできません。
まず神経の大きな部分を取り、残った細かい枝分かれの神経は薬で時間をかけて洗浄し、溶かして除去します。洗浄が不十分であると、神経と細菌を取り残すことになります。
ただ、洗浄が十分であっても100%すべて神経・細菌を取り除くことはできません。治療の最後に薬をつめるのですが、薬と根の間に隙間があれば、そこで細菌が増殖して根の病気を作ってしまいます。
増殖しないためには、ぎっしりと薬を根の中に隙間(すきま)なくつめて、細菌を薬で閉じ込めることが重要になります。細菌は増殖することができないので、根の病気もできません。
以上になります。しっかりとした治療と、不十分な治療の違いがお分かりになったと思います。
保険治療ではしっかりと取った/取っていないに関わらず、同じ費用が患者さんにかかります。しっかりと取ってくれるかどうかは、歯医者次第です。
当院ではCT、マイクロクコープ(顕微鏡)をはじめとする、神経・根の治療をしっかりと行う設備がございます。歯を少しでも長持ちさせたいと思われる方は、ぜひいらしてください😄